土壌学研究室ゼミ
1997.6.13
程 為国
研究生とした研究テーマ:
VA菌根菌の土壌中での生態に関する基礎的研究
はじめに
VA菌根菌は接合菌類Glomales 目に所属し、120種ほどがある一類糸状菌である。VA菌根菌が宿主植物の根に共生し、リンなどの栄養分を植物に供給したり、乾燥や土壌に加えられるさまざまな環境ストレスから植物を保護する働きをしている。このように菌根菌には作物生産向上・安定化に寄与する働きがあり、低コスト・環境保全的農業の技術開発を行う上で重要な意味を持つと考えられる。現在までのところ、VA菌根菌を単独で増殖させることはできないが、この菌の増殖のためには宿主植物との共生状態の成立が必要である。しかし、土壌中でのVA菌根菌のlive cycleとか菌根菌胞子の形成数と跡作物の再感染の関係とか土壌中の胞子数と 土壌の化学性、生物性の関係などの菌根菌生態に関する基礎的な知見がほとんど解っていない。したがって、本研究では土壌中でのVA菌根菌生態について以下の実験をおこなった。
【実験1】各種有機性廃棄物が施用された土壌でのVA菌根菌胞子数
および部分化学性との関係
実験目的:
各種有機性廃棄物の施用による土壌の化学性、物理性、生物性が影響されると考えられる。生物性については、昨年林が多摩土壌と豊橋土壌を用いて、各種有機性廃棄物の施用が粒径別土壌粒子中の微生物バイオマス窒素に及ぼす影響の研究をおこなった。各種有機性廃棄物の施用による土壌中のVA菌根菌胞子数(土壌の生物性指標の一つとするのはできるか?)はどんな影響があるか、あるいはこの影響と土壌の可給態リン酸含有量、pHとの関係があるかどうかのは今回の実験の目的である。
供試土壌:豊橋農業技術センターの圃場の中粗粒黄色土、各種有機性廃棄物の処理 は表1に示している
測定項目:各種有機性廃棄物の処理区土壌の
1、VA菌根菌胞子数(デカンテーションーふるい分け法);
2、可給態リン酸含有量(トルオーグ法);
3、pH(水抽出液、ガラス電極法)。
結果および考察(表1):
化学肥料のみ有機性廃棄物無施用の対照区はVA菌根菌胞子数が一番多かった、豚ぷん堆肥区を除いて、ほかの有機性廃棄物施用区は少なかった。
VA菌根菌の最適生育pHはpH5〜7の間だと言われるが、今回実験の各種処理区土壌のpHがちょうど5〜7の間だから、VA菌根菌の胞子数とpHの関係が見られなかった。
VA菌根菌が宿主植物に感染して、宿主植物のリン酸吸収の促進するのはリン酸肥沃度の低い土壌で効果が大きいと言われる。今回の実験では、対照区と汚泥コンポスト6t残効区が可給態リン酸量同じように低いのに、VA菌根菌胞子数は違った。汚泥コンポスト区では重金属あるいは他の原因ように影響かどうかと考えられる。
【実験2】各種有機性廃棄物施用区菌根菌胞子数と跡作植物の感染率の関係
実験目的:
各種有機性廃棄物の施用によっては土壌中のVA菌根菌の胞子数が影響されることが認められた。そして、胞子数が違った土壌によって跡作植物のVA菌根菌の感染率が影響されるかどうかを検討した。
材料と方法:
1、 供試土壌:各種有機性廃棄物を施用した豊橋土壌と多摩土壌
2、 供試植物:マリーゴールド(ボナンザスプレー)
3、 栽培条件:温度25度、日照20000lx 16 hours / dayの人工気象器を使用した
4、 播種方法:豊橋土壌は5mm篩を通し、40g乾土相当の湿潤原土と60g乾砂を100mlのプラスチックポットに充填した。その後、3粒/ポット播種して、1週間後1本にした。多摩土壌は5mm篩を通り、40g湿潤原土と60g乾砂を100mlのプラスチックポットに充填した。その後、3粒/ポット播種して、1週間後1本にした。
5、 基肥施用:毎ポット11.8mg(NH4)2SO4 Dと4.0mgKClを施用した
6、 栽培時間:6週目にサンプルを取った
7、 処理反復 :3反復
8、 感染率の測定:トリパンブル染色法による植物根の感染率を測定した
9、 VA菌根菌の胞子数:実験1の通り
結果および考察(表2):
今回は2種類土壌を用いて実験した。多摩土壌ではVA菌根菌の胞子数が多ければ跡作植物に感染率が高くなった。しかし、豊橋土壌ではほとんど感染しなかった。汚泥コンポスト1t連用区だけ感染率が12.8%になった、その原因が不明だった。
同じ汚泥コンポスト資材施用した多摩土壌(表層腐植質黒ボク土)と豊橋土壌(中粗粒黄色土)では、VA菌根菌の定着性が完全違っていることが分かられた。
時間のため、今回の跡土壌の胞子数は測定しなかった。
【実験3】CVA菌根菌の胞子生成数と宿主植物の根に感染率の関係
VA菌根菌の純粋培養はまだできない状態が続いているために、VA菌根菌と作物および土壌の関係の研究は作物根の感染率および土壌中の胞子数の測定をするしか手法がない。しかし、土壌中の胞子数と作物根の感染率の関係について研究はまだほとんど行なわれていない。
従って、土壌中VA菌根菌の胞子生成数と感染率の関係についてGlomus etunicatum を用いて無菌砂耕のポット予備実験を行なった。供試植物はリーキとクローバーとマリーゴールドであった。200個Glomus etunicatumの胞子を接種して、4週間、8週間、12週間のときにVA菌根菌の胞子数と植物に感染率が同時に測定された。栽培条件は実験2の通りであった。
4週間の結果をみれば(表3)、クローバー胞子数も増えた。リーキはまだ増えなかった。植物によるVA菌根菌の胞子開始生成期が違うためと考えられる。8週間のとき菌根菌の胞子数がたいへんに増えた。大量胞子の形成期が作物生育の中後期になると認められた。また、作物生育の中後期では同一植物で、感染率が高くなれば、胞子数も多くなることも認められた。
以上を要約すると、各種有機性廃棄物を施用した土壌では土壌種類によるVA菌根菌の定着性が違う、VA菌根菌の胞子生成数と宿主植物の根に感染率が正相関性あると認められた。