土壌学研究室ゼミ                                     1998年10月30日

程 為国

 

Rice FACEについて

What is Rice FACE

 

1FACEということ

 はじめてFACEを聞くときに、皆さんは多分顔と連想してしまうと思う。顔という意味英語のfaceは、いろいろな付け方によって、いろいろな面白い意味が出る単語の一つである(たとえば、face card, pull a face, make a face, in the face of day, face to faceなど)。また、最近日本では、ある超一流テレビがFACEという新ブランドとして販売されている。今回、私が紹介したいFACEは以上のことと全く関係はなく、ただ一つの実験方法である。実験方法としてFACEは、free air CO2 enrichmentの略で、何も囲いをしないフィールドの空気にCO2を放出して、今後予想されるCO2濃度上昇が、各種生態系に及ぼす影響を調べるための実験施設である。

 

2、なぜFACE実験をするか

 産業革命以来、地球規模での人口増加および人間活動の高度化に伴う化石燃焼や森林伐採や土地不正利用などによって、大気中のCO2濃度が280ppmから現在の360ppmに増加してきて、また来世紀の中期に、未だかつて人類が経験したことのない濃度560ー700ppmに増加していくと予想されている。そのような高いCO2濃度は人類が生存している地球生態系にどのよう影響を与えるのかがとても重要かつて至急な課題になっている。

 

3、CO2濃度を高める実験法の比較

 今まで、CO2濃度上昇が各種生態系に及ぼす影響を調べる実験に対して、CO2濃度を高める方法は以下三種類があると考えられる。

(1) 微小気象系(incubator,close chamber, greenhouse

(2) 口あけチャンバーいわゆるOTC系(open top chamber 

(3) FACE ( free air CO2 enrichment)  

 以上の三種類の中で、FACE系のほうは、他のほうと比較すると以下の長所があるといわれる。

(1) 施設自体が多かれ少なかれ植物の生長に影響を及ぼすことがない;

(2) 同一施設には多種多様な研究内容を行なうことができる;

(3) コストが低い。

 このため、現在世界中の各種生態系にFACE実験が盛んに行われている。

 

4、世界中のFACE実験

 1986年にアメリカのBrookhaven National Labortory The US Department of Energy (DOE)に支持されて、植物に対して最初のFACE実験をアメリカで、次にオランダとイングランドで行なった。1989年に、世界で最も盛んに実験を行なっている、アメリカのアリゾナ (Maricopa Agricultural Center of University of Arizona) FACEプロジェクトが発足し、ワタやコムギなど生態系を対象として研究している。また、Duke Universityの専門家らが森林生態系(マツ林)で、スイスの科学者らが草地生態系で、ニュージーランドの研究者らが牧場生態系でFACE実験を実施している。さらに、日本では、1996年からRice FACE プロジェクトが実施されている。

 

5、Rice FACE プロジェクト

 Rice FACE プロジェクトは1996年〜2000年までの5年間、科学技術振興事業団の戦略的基礎研究推進事業の一つとして実施されたが、今までの参加研究機関は農業環境技術研究所と東北農業試験場を主体に、農業生物研究所、東京大学、東北大学、千葉大学、信州大学、北陸農業試験場等である。実際に実験が1998年から岩手県雫石町で行われている。実験二つの処理の対照区と FACE区(外気+200ppm)はそれぞれ4リング反復している。実験リングは図2で示したような八面形で、中央部にコントロールセンサーがあり、CO2が八面の縁(ふち)にあるパイプの空隙から中央部に吹き込むように設定している。研究課題は大きくわけると、実験研究では FACEの設計と設置、高CO2がイネの成長及びイネを含む生態系に及ぼす影響である。

 

6、Rice FACE プロジェクトの中での本研究の目的と内容

 水田土壌が水田生態系の組成にはとても重要な一部分であると考えられる。また、水田土壌はイネの栄養吸収源だけではなく、CO2の次に温室効果の高いガスCH4の主要発生源と言われている。このため、われわれは高CO2が水田土壌の微生物バイオマスとメタン放出に及ぼす影響を中心として研究する予定である。バイオマスを中心にする研究では、微生物バイオマスCN、全有機炭素・窒素、無機態窒素量、可溶性炭素、可給態窒素量、土壌表面のクロロフィル様物質量等の項目を測定する(犬伏、Hoque担当)。メタンを中心にする研究では、メタンの放出量、メタンの生成・酸化活性、メタンの生成・酸化菌数、酸化還元電位等の項目を測定する(犬伏、程担当)。

 

7、いままで得られた結果(メタンの放出量)

 今年、水稲生育期の6月から8月の間に4回、FACE実験の現場でチャンバー法によってメタンの放出量を測定した。結果は図1に示している。結果によると、移植後50日目の分げつ期のメタンの放出量が多かった。特に、対照区と比較すると、水稲生育前期にFACEのほうは対照区より多かった。逆に水稲生育後期に対照区のほうが多かった。われわれの昨年に無植物のインキュベーター実験の結果によって、高CO2濃度がメタンの放出量を削減すると認められた。しかし、ZiskaらはIRRIでのOTC実験を実施している水稲田から、高CO2濃度がメタンの放出量を促進する結果も報告した。以上の三つの結果を総合すると、高CO2濃度が無植栽あるいは水稲生育前期の水田土壌から放出したメタンを削減し、また高CO2濃度も水稲生育後期の水田土壌から放出したメタンを促進すると考えられる。