水稲の乾田直播栽培における湛水開始時期の違いが種子の苗立ちに及ぼす影響

本城淳子・安藤豊・角田憲一

キーワード:苗立ち、苗出率、直播、土壌還元、保温効果
 

 寒冷地での省力的な水稲乾田直播栽培の確立を目的に、酸素供給剤無粉衣条件で保温と湛水の両条件が苗立ちに及ぼす影響について検討を行った。
 実験は室内で水分処理(畑水分条件、湛水条件)、温度処理(15℃、17℃)を、処理時期(0、3、6、9、12、15、18、21)を変えて行った。これらの処理と出芽率(出芽個体数/播種個体数)、苗立ち率(苗立ち個体数/播種個体数)および苗出率(苗立ち個体数/出芽個体数)の関係を検討した。得られた結果は以下の通りである。
1)土壌の酸化還元電位は湛水直後、17℃処理で15℃処理よりも低く推移したが、その後は温度処理によらず同様の推移を示した。
2)対照区(畑水分15℃条件)から保温区(畑水分15℃条件から畑水分17℃条件)ないし湛水保温区(湛水17℃条件)へ移行した時期を処理時期とし、両区を比較すると両区の出芽率、苗立ち率および苗出率は処理時期によって大きく異なった。処理時期が早いほど湛水保温区の出芽率、苗立ち率は低くなった。出芽率は播種後18日以降、苗立ち率および苗出率は播種後15日以降の処理では両区に差が認められなかった。
3)処理時期が早いほど湛水区(畑水分15℃条件から湛水15℃)と湛水保温区の出芽率、苗立ち率および苗出率は低くなった。両区を比較すると、播種後18日以降の処理では差が認められなかった。また、処理時期が早いときの苗立ち率、苗出率は両区で大きな差が認められ、湛水保温区で高い値を示した。しかし、出芽率は処理時期が早いときでも両区の差は小さかった。
4)温度処理を込みにして湛水処理すなわち入水時期ごとに苗出率を対照区と比較すると3グループに区分され、0日処理≒3日処理<6日処理≒9日処理≒12日処理<15日処理≒18日処理≒21日処理≒対照区の関係にあった。これら3グループ間では0.1%水準で有意な差が見られた。本試験での発芽期は播種後3?6日、出芽期は播種後12?15日で、これらの時期は苗出率と関係しているものとみられた。すなわち、苗出率は湛水時に種子が発芽しているか、出芽しているかによって異なるものと思われた。
5)上述の結果は寒冷地の水稲の直播栽培において、省力的で、なおかつ、安定的な苗立ちを得る栽培方法として、出芽後に湛水を開始するのが適当であることを示唆する。
 

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