水田の表層および根圏土壌で生じる硝化作用と水稲による窒素吸収の関係

大橋 洋平

【緒言】日本の水田において硝化-脱窒作用は施肥窒素の主な窒素ロスの原因であり、硝化-脱窒作用により放出されるN2Oは温室効果およびオゾン層破壊の原因となっている。水田での硝化-脱窒作用は酸化的部位が存在する土壌表層と水稲根近傍付近でおこることが知られている。表層に窒素施肥をしたとき24-35%、土壌表層を回避して根圏に窒素施肥したとき3-9%の施肥が脱窒されると報告されている。このことは土壌表層と比較して水稲根圏の脱窒量が少ないことを示している。しかし、水稲根圏で脱窒量が少ない理由は明らかにされていない。水稲根圏での脱窒量が小さい理由は脱窒作用の前駆物質である硝酸態窒素生成量ないし水稲による硝酸態窒素吸収にあると考え、水稲が吸収している硝酸態窒素およびアンモニア態窒素に着目した。しかし、水稲が吸収している硝酸態窒素およびアンモニア態窒素の測定方法は確立されていない部分が多い。そこで、水稲が吸収した両窒素を評価するために導管液を採取し、導管液中の硝酸態窒素、アンモニア態窒素を測定する方法(実験1)と80%熱EtOH抽出法によって抽出した硝酸態窒素、アンモニア態窒素を測定する方法(実験2)の2つを検討した。さらにその結果を利用して水田土壌表層および根圏で生じる硝化作用と水稲による窒素吸収の関係について明らかにすることを目的とした(実験3)。

【材料および方法】(実験1)@導管液採取時間:処理区 導管液採取1、2、3、4、5、6時間。測定項目 導管液量(重量法)。A導管液中の酵素反応の影響:処理区 導管液を冷凍保存、常温保存2時間、常温保存2日間、阻害剤添加+冷凍保存。測定項目 導管液中硝酸態窒素(CATALDO法)、アンモニア態窒素(インドフェノール・ブルー法)、グルタミン態窒素(遊離アミノ酸の比色法)。(実験2)@100mL容三角フラスコを用いたEtOH抽出液中アンモニア態窒素回収法:測定項目 アンモニア態窒素(インドフェノール・ブルー法)A250mLポリビンを用いたEtOH抽出液中硝酸態窒素回収法:測定項目 アンモニア態窒素(インドフェノール・ブルー法)。(実験3) 水田土壌表層および根圏で生じる硝化作用と水稲による窒素吸収の関係:処理区 表層施肥法、注入施肥法。測定項目 80%熱EtOH抽出液中硝酸態窒素(CATALDO法)、アンモニア態窒素(インドフェノール・ブルー法)。

【結果】実験1@Aより80%熱EtOH抽出し測定する方法と比較して導管液を採取し測定する方法の方が水稲中硝酸態窒素およびアンモニア態窒素への酵素反応の影響が大きいことが示唆された。実験2@添加したアンモニア態窒素の102%を回収した。A添加した硝酸態窒素の102%をアンモニア態窒素として回収した。以上のことから、実験1@Aの方法で80%EtOH抽出液から硝酸態窒素およびアンモニア態窒素を測定できることが示唆された。水稲が吸収している窒素の形態を80%熱EtOH抽出法を用いて測定した結果、根圏で脱窒がおこらないのは、根圏での硝酸態窒素生成量が少なく、硝酸態窒素が生成されたとしても水稲に吸収されるので脱窒しないことが推察された。

 

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