マンゴーの生理障害(「スポンジ状果」)に関する研究
Spongy disorder in mango fruits


 マンゴーはタイの主要な果実であり,また輸出農産物です.2012年の統計によれば,タイのマンゴーは年間265万トン生産され,これはインド,中国,ケニアに次ぐ,世界第4位に相当するそうです.また,日本が外国から輸入するマンゴーのうち,タイ産が占める割合は約15%で,7.5億円ほどになるそうです.
 このように,マンゴーはタイの農産物の中でも重要な位置を占め,輸出作物でもあることから,品質管理には十分気を遣う必要があります.普通,収穫後の品質を維持するためには,冷蔵庫のような温度の低い所に保存しておくのが一番良いのですが,残念なことに,マンゴーのような熱帯性の果実は低温に長く当たると,果実表面が黒く変色したり,斑点のようなものが出てきたりします.特に若い果実ではこうした傾向が強く,熱帯性の果実が長期間貯蔵できない理由の一つになっています.
 だからと言って,普通収穫したマンゴーの果実をそのまま食べると,酸っぱくて美味しくありませんし,また,マンゴー特有のトロッとした舌触りではなく,ザラザラとした感じがします.こうしたマンゴーが美味しく食べられるようになるためには,収穫した果実を一定期間冷蔵庫内に入れておく必要があります.しばらくの間冷蔵庫で熟成させたマンゴーを元の暖かい室内に戻すと,程なくしてマンゴーは特有の甘さと舌触りを持った,果実へと変わって行きます.こうした操作は「追熟」と呼ばれマンゴーを扱う農家や集荷業者にとっては非常に重要な仕事になります.
 美味しいマンゴーを食べるためには,ある程度の追熟は必要不可欠ですが,前述したとおり,そもそもマンゴーのような熱帯性の果実は低温には強くありません.ですから,チョット収穫時期や貯蔵温度を間違ったり,あるいは貯蔵する際に追熟を促す薬品処理をすることもあるのですが,その際に薬品の濃度を間違ったりすると,様々な障害を持ったマンゴー果実が出来上がってしまいます. 更に,マンゴーは,樹の上で育っている間から,既に内部に空洞ができていたりする場合があります.こうした果実は,外観から判断するのがとても難しいため,日本に輸出されるまでの間で行われる検査をすり抜けてしまう場合があります.マンゴーは外国産であっても価格が非常に高いため,こうした果実が間違って消費者の手元に届いてしまうと,消費者からのクレームがスーパーを通して,最終的にはタイの生産者にまで届くことになります.
 このような障害は「生理障害」と言われる現象(メロンの生理障害の項参照)で,決して病原菌に由来するものではありません.ですから,食べたからといって,特段問題になることはないのですが,やはりお金を出して買った消費者の立場で考えると,何だか裏切られた感じがするのも事実です.そこで,私達の研究室では,タイのチェンマイ大学との共同でマンゴーの生理障害についての国際共同研究を行っています(詳しくは,「タイとの国際共同研究」を参照して下さい).

マンゴーの生理障害果 障害部位の電子顕微鏡写真
マンゴーに関する主な研究業績
  1. Y. Motomura, T. Nishizawa, A. Katsuta, A. Ishida, W. Kumpoun and T. Puthmee. 2013. Effects of 1-MCP and DPA on the Changes in Sesquiterpene and Total Phenol Contents Associated with Superficial Browning in Ripe Mango Skins. Acta Horticulturae 989:61-68.
  2. Motomura Y., T. Nishizawa and W. Kumpoun. 2013. Changes in peel color and cuticle components of mango skin affected by temperature treatment after harvest. Acta Horticulturae 1012:155-160.
  3. Kumpoun W., Y. Motomura and T. Nishizawa. 2015. Free and bound polyphenols in mango fruit peel as functional food ingredients with high antioxidant activity. Acta Horticulturae 1088:515-519.