選択的紫外線カットフィルムを用いた栽培管理に関する研究
Effect o Partially UV-blocking Films on Pest Management


 農薬に依存しない病害虫管理は、園芸作物生産における最も重要な課題の一つです。現在でも様々な方法が試みられていますが、私達は選択的紫外線カットフィルムを用いた妨害中防除に取り組んでいます。紫外線(UV)カットフィルムは現在でも市販され、紫外線をを取り除くことで、園芸作物の生育が促進されたり、病害虫に対する忌避効果があるなど、様々な利点が確認されていますが、一方で、一部の園芸作物では、アントシアニン合成が紫外線の影響を大きく受けたり、ミツバチの帰巣が攪乱してしまうなど、欠点も見られます。
 こうしたことから、私達は、「病害虫防除には効果があり、かつ、園芸作物の着色には影響を与えない」というようなフィルムを開発できないかと考え、紫外線透過率を少しずつ変えたフィルムを使った実験を行っています。
 最終的には、例えばミツバチの交配時期や果実の着色期には紫外線を透過し、それ以外の時期には紫外線をブロックするようなフィルムの開発が出来ればと考えています。
 本研究は,現在主にバングラデシュのSher-e-Bangla農業大学(ダッカ)との国際共同研究として実施しています.バングラデシュではまだまだ一般農家における農薬使用の知識が乏しく,また農薬に対する使用規則の遵守も,日本の様に管理されていません.そのため,ともすると必要以上の化学農薬が使用され,こうした状況が続けば,将来的に健康被害が発生する恐れもあります.従って,出来るだけ化学農薬を使わない栽培方法の確立が非常に重要な研究テーマになっていますが,例えば日本で広く用いられている様な生物農薬の利用は,温室の構造上の問題や価格の問題もあり,直ちに普及するレベルには達していないのが現状です.
 そこで,現状のバングラデシュの生産農家でも導入可能で,かつ効果的な減農薬栽培方法を導入する必要がありますが,選択的UVカットフィルムは,その選択肢の一つです.現状では,非選択的UVカットフィルム(普通のUVカットフィルム)でもかなり高価なため,一般にはまだ余り普及していませんが,食の安全と健康に対する関心は,都市部の富裕層を中心に年々確実に高まっており,近い将来,無農薬や完全有機栽培の野菜や果物が,広く流通して行く可能性は大いにあります.
 バングラデシュは,日本と異なり,雨季と乾季がはっきりしており,雨季には河川の氾濫や高湿度のため,野菜の温室栽培が困難となる場合が多いです.逆に乾季(11〜3月頃)には晴天が続く一方,温度はそれ程高くならないので,野菜類の多くはこの間に集中的に栽培することが一般的です.こうした気候特性を活かした温室栽培方法を確立できれば,非選択的UVカットフィルムや選択的UVカットフィルムは大いに役立つ可能性があります.


UVカットフィルムに関する主な研究業績
  1. T. Nishizawa, Y. Shishido, B. Sasaki, C. Sato, Y. Hanawa and K. Matsumura. 2012. Effects of Specific UV-Blocking on Plant Growth and Insect Control. Acta Horticulturae 927: 203-210. (平成21〜23年度 科学研究費(C) 21580022 )
  2. Solaiman A.H.M., T. Nishizawa*, S.A. Nayem, S.M. Mohsin and M.S.M. Chowdhury. 2015. Effect of particlly UV-blocking films on Xanthomonas axonopoides Pv. citri causing citrus (Citrus aurantifolia) canker. World Journal of Agricultural Sciences, 11(4): 202-209.
  3. Solaiman A.H.M., T. Nishizawa*, S.M.A. Arefin, Md.D. Sakar and M. Shahjahan. 2016. Effect of partially UV-blocking films on the growth, yield, pigmentation, and insect control of red amaranth (Amaranthus tricolor). British Journal of Applied Science & Technology 12(2): 1-11.
  4. Solaiman A.H.M., T. Nishizawa*, S.M.A. Arefin, Md.D. Sarkar and M. Shahjahan. 2016. The influence of partially UV-blocking films in the insect infestation and in the growth of broccoli and turnip seedlings. British Journal of Applied Science & Technology 13(2): 1-11.
 選択的UVカットフィルムを用いたアブラムシ防除に関する実験結果.
 バングラデシュでの選択的UVカットフィルムを用いた野菜栽培実験の様子.冬季である乾季は気温も穏やかで晴天が続くため,UVが植物や昆虫に与える影響を調べるには非常に良い条件である.
   
  UV量が違うと,同じサラダナでもこのくらいの違いが出る.