メロンの生理障害(「水浸状果」)に関する研究
Watercore in melon fruits

 庄内地域のメロンは“砂丘メロン”と呼ばれ,多くは3月頃に種をまいて,苗をビニルトンネルに定植し,夏に出荷する,「トンネル早熟栽培」という方法で栽培されています.この作型は,果実が大きくなる時期と梅雨の時期が重なるため,長雨が続くような年には日照不足から果実の糖度がなかなか上がらないことがあります.また,温度が高い時期に果実が成熟するため,成長速度は速いのですが,果実が柔らかくなるのも早く,特に温度が高く長雨が続くような年では,収穫後の果肉が水浸状に変化していることがあります.このような現象は所謂病虫害によるものではなく,果実の生理的要因によって起こる“生理障害”で,一般には「うるみ果」という名称で呼ばれています.メロンの「うるみ果」はリンゴの「蜜入り果」に似ていますが,リンゴの密のように甘くはなく,大抵は食べても美味しくありません.また,果肉は柔らかく,発酵していることもあります.

 今までの研究で「うるみ果」は収穫前の数日間で急に発生することが判っています.ですから,つい2〜3日前に収穫した果実は何ともなくても,今日収穫した果実は「うるみ果」になっていたというようなことがしばしば起こります.「うるみ果」は収穫後の貯蔵条件によっては発生することもありますが,‘アンデス’のような一般的なメロン品種では,ほとんどが栽培している間に発生しているようです.

 一般の消費者には,メロン果実の外観から「うるみ果」の発生状態を確認するのが困難なため,食べようと思って切ってみて初めて障害を見つけることになります.消費者にとっては,非常に裏切られた気持ちになり,怒りがこみ上げてくるため,スーパーや市場に抗議の電話を掛けてくる人もいるそうです.

‘アンデス’に発生した「うるみ果」 メロン栽培の様子

 「うるみ果」の発生は,温度や雨量といった天候に左右されるため,これを完全に防止することは困難です.また,果実内部を非破壊的に検査して,「うるみ果」の発生状況を推察することは実験的には可能ですが,実用的にはまだ困難が多いです.産地では「少し早めに収穫する」などの指導により,なるべく「うるみ果」が出ないように指導しています.
 ‘プリンス’などの品種では,カルシウムが不足すると「うるみ果」が発生することが知られており,カルシウムと「うるみ果」との関係を示す内外の研究報告も多く見られます.一方,‘アンデス’などの品種では,通常量のカルシウムを施肥しておいても「うるみ果」が発生することがあり,発生メカニズムは単純ではないようです.

カルシウムを欠乏させて育てた‘プリンス’メロンに発生した「うるみ果」

メロンに関する主な論文

  1. Nishizawa, T., S. Taira, M. Nakanishi, M. Ito, M. Togashi. and Y. Motomura. 1998. Acetaldehyde, ethanol, and carbohydrate concentrations in developing muskmelon fruit (Cucumis melo L. cv. Andesu) are affected by short-term shading. HortScience 33(6): 992-994.
  2. Nishizawa T., A. Ito, Y. Motomura, M. Ito and M. Togashi. 2000. Changes in fruit quality as influenced by shading of netted melon plants (Cucumis melo L. ‘Andesu’ and ‘Luster’). Journal of The Japanese Society for Horticultural Science 69(5): 563-569.
  3. Nishizawa T., A. Tamura, S. Mitsuzuka, T. Aikawa, M. Togashi and Y. Motomura. 2002. Water-soaked symptom of ‘Andesu’ netted melon fruit is not developed under anaerobic nitrogen atmospheres during ripening. Plant Growth Regulation 38(1): 7-14.
  4. 西沢 隆・戸谷 史・近藤佑子・宍戸良洋.2004.アルカリ処理した有機性廃棄物の施用時期がメロン‘プリンス’苗の生長および果実品質に及ぼす影響.園芸学研究 3(1): 27-32.
  5. 西沢 隆・戸谷 史・近藤佑子・宍戸良洋.2004.アルカリ処理した有機性廃棄物の定植床への施用がメロン‘プリンス’苗の生長,果肉硬度,植物体および土壌に含まれるカルシウム濃度に及ぼす影響.園芸学研究 3(1): 39-44.
  6. Nishizawa T., T. Kobayashi and T. Aikawa. 2004. Effect of calcium supply on the physiology of fruit tissue in ‘Andesu’ netted melon. Journal of Horticultural Science and Biotechnology 79(3): 500-508.
  7. 西沢 隆・伊藤彩香・伊藤政憲.2004.メロン‘プリンス’と比較した山形県在来マクワウリ‘早田瓜’の生長,形態および生理的特性.園芸学研究 3(4): 399-403.
  8. 生井恒雄・森北美紀・清井加寿子・西沢 隆.2006.電解強酸性水(機能水)散布による温室栽培メロンのうどんこ病防除.山形大学紀要(農学)15(1): 43-50.
  9. Aikawa, T., T. Nishizawa, M. Ito, M. Togashi and N. Yamazaki. 2006. Changes in cell wall composition in ‘Andesu’ netted melon (Cucumis melo L.) fruit as influenced by the development of water-core. Asian Journal of Plant Sciences 5(6): 956-962. (Corresponding author)
  10. 相川敏之・西沢 隆・伊藤政憲・冨樫政博・山崎紀子.2007.遮光処理がメロン果実のエチレン生成と「水浸状果」の発症に及ぼす影響.園芸学研究.6(2):283-287.
  11. Nishizawa T., K. Okafuji and H. Murayama. 2009. Storability and development of physiological disorder of netted melon 'Life' fruit as influenced by storage conditions. Acta Horticulturae 837: 147-154.
  12. Motomura Y., T. Aikawa and T. Nishizawa. 2012. Decrease in galactose residue in cell wall polysaccharides of 'Andesu' netted melon fruit influences the formation of the water-core. Acta Horticulturae 943: 95-102.
  13. Puthmee T., K. Takahashi, M. Sugawara, R. Kawamata, Y. Motomura, T. Nishizawa*, T. Aikawa and W. Kumpoun. 2013. The role of net development as a barrier to moisture loss in netted melon fruit (Cucumis melo L.). HortScience 48(12): 1463-1469.