有機ELパネルと植物工場
Organic EL Displays & Plant Factories

 
 私達の研究室では,山形大学工学部有機エレクトロニクス事業化センターの協力の下,有機ELディスプレイを用いた野菜の栽培試験に取り組んでいます.現在,レタスやイチゴを育てています.
 今後,日本の園芸産業では,植物工場が大きな発展を遂げることが予想されています.現在の光源は蛍光灯やLEDが主流ですが,近い将来,有機ELがこれらの光源に取って代わる可能性もあります.旧来型の有機ELディスプレイは必ずしも植物生産に適した波長域ではありませんでした.また,蛍光灯や高輝度LEDと比較すると,全体的に光強度が弱く,パネル自体が発熱するなどの問題がありましたが,近年開発されたパネルはこうした点がかなり改良され,写真で示したような葉菜類や小さな果菜類であれば,何とか育てられるレベルになっています.
 勿論,まだ問題が全て解決されている訳ではありません.パネル自体のコストもさることながら,葉の形状や厚み,糖やクロロフィル含量といった,品質に直接影響する諸要因については,まだ従来の光源に追いついていません.
 また,2013年に行ったイチゴ栽培の実験では,1果房5果のみを着果させて育てましたが,現状ではこれ以上着果負担が増加すると,正常に育てるのが困難な状況です.また,有機EL光源は基本的に余り紫外領域の波長を含まないので一部のイチゴ品種や,ナスのように,正常なアントシアニン形成に紫外線を必要とする作物を栽培する場合には,予めこうした点を考慮しておく必要があります.
 将来の有機ELディスプレイは,折り曲げて使用することも可能な光源へと進化することが予想されていますので,こうした利点を上手く利用すれば,LEDのように,光源自体が大きな光強度を持たなくても,十分作物栽培に利用できると思います.
 イチゴのような果菜類でも育てられることが証明できたので,私達の研究室では,2013年度の目標として有機ELパネルを用いたトマトの栽培を計画しています.トマトやメロンのように,本来茎が長く伸びる(植物学的には必ずしも「縦に」伸びている訳ではありません)作物は,現在でも人工光型の植物工場が最も苦手とする作物の一つで,人工光源でこの点を克服できるかどうかは,将来の植物工場の姿にも大きく影響してくると考えられます.
 さて,有機ELパネルを用いたイチゴ栽培については,通常の品種(これを「一季成り性品種」と呼びます)ですと春に花が沢山咲くため,どうしてもある程度花を摘んで,成長する果実の数を制限する必要がありました.また,越冬したイチゴは人工気象器内で育てると,葉が大きくなり過ぎて栽培が困難でした.そこで,一季成り性品種ほど大きくはならず,一度にそれほど多く花が咲かない「四季成り性」品種の鈴音を使って,再度栽培実験を行いました.結果は一季成り性品種の場合より上手く行き,イチゴとしてバランスの取れた草姿となり,株の大きさを基準にすると,まずまずの成果が得られました.今後はこうした知見を基に,より効率的な光照射の方法や時間について検討して行く予定です.
   
 有機ELパネルを用いて育てた四季なり性イチゴ  有機ELパネルを用いて育てたサラダナ

有機EL植物工場に関する主な論文・学会発表
  1. Nishizawa, T. 2014. Present status and future outlook of plant factories in Japan. Advances in Horticultural Science 28(2): 84-89.
  2. 西沢 隆・佐々木文平・池田 弥生・柘植 貴子.2014.白色有機EL照明を用いたサラダナ栽培に関する研究.園学要旨 平26東北支部.23-24.

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    Nishizawa T. and Y. Shishido. 2013. Chapter 2. Translocation and distribution of photosynthates in tomato plants. In: T. Higashide ed. Tomatoes: Cultivation, Varieties and Nutrition. Nova Science Publishers 19-49.
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