本文へジャンプ

研究概要 | 研究体制 | 現在の取り組み研究成果コンタクトリンク | 関係者ページ(準備中)


  拠点が目指すもの 
 イノシシ・サル・クマによってもたらされる産業・生活基盤への影響は、深刻な社会問題として広く認識されるようになりました。また、ニホンジカによる生態系の改変も、無視できない脅威として各地で顕在化しています。これらの問題に対する関係機関の対応として、これまで対象動物の数や分布を管理するための「科学」、更には集落や保護区への侵入を抑止するための「技術」の開発に取り組んできました。
 しかし、こうした「科学」や「技術」を活用したとしても、残念ながら多くの地域において、「問題は解決した」という実感を十分に得ることができていません。この背景として、地域の現況、すなわち「人口減少社会」があると考えられます。人(担い手)が確保できることを前提とした科学や技術では、未曽有の人口減少時代を迎えた日本において、その有効性は限定的です。また、将来が見通せない人口減少集落では、「何のために野生動物を管理すべきか」という目標設定そのものが困難になりつつあります。

    
図:日本の総人口の推移*と野生動物問題
*仮に、出生率(現在:1.42)が人口置換水準(人口が増減せず、均衡が保たれる水準:2.07)まで向上したとしても、その後数十年間は日本人口は減少し続けるという傾向は変わらないことが予測されています。このことからも、「人口減少」を前提とした社会づくりが求められています。



 この研究拠点では、農村やそれを取り巻く都市圏における急速な人口減少という現実を直視し、縮小社会に適応した新たな野生動物管理システムの構築を目指しています。ここでは特に、産官学の協働を重視し、以下2つの課題に取り組んでいきます。

(1)低コストな個体群管理・生息地管理・被害対策に向けた科学と技術の集積
   ・開発と、それらの効率的な普及
(2)実現可能な問題解決のゴールを「地域の視点」と「未来(将来世代)の
   視点」の双方から導き出すための合意形成・政策決定手法の模索



 なぜ今「野生動物管理」が必要か? 

理由1:野生動物問題の広域化・多様化・深刻化

  農村への影響:農村における農業・生活被害は依然として拡大しています。被害拡大は、農村集落の生業・生活の空洞化(離農や移住など)を推し進める要因の一つとなり、結果的に被害に対してより脆弱な集落が増加しています。
 都市への影響:昨今の野生動物問題は、都市にも拡大しています。野生動物との交通事故(ロードキル)の増加や、人獣共通感染症の蔓延も懸念されています。
 生態系への影響:生態系改変者(ecosystem engineer)と呼ばれるニホンジカの分布拡大と高密度化に伴って、在来生態系の不可逆的な改変が懸念されています。        

    
写真:ニホンジカのロードキル(左)、シカ侵入防止柵(中央)、シカの採食によって林床植生が失われた日光の森(右)



理由2:問題に対応可能な研究・普及拠点の不足

 野生動物問題の深刻化に伴い、関係省庁における関連予算は拡充されています(例えば、鳥獣被害防止総合対策交付金はここ5年間で約10倍になっています)。その一方で、科学的知見・技術を生産するための研究拠点や、知見・技術を生かすための普及拠点は不足しており、管理を推進するための「受け皿」作りが喫緊の課題です。

        
          
写真:侵入防止柵(山形県天童市)


理由3:法律改正

 2015年、鳥獣保護法は鳥獣保護管理法へと改正されました。「管理」という言葉が新たに付け加えられたことからも明らかなように、増加傾向にある動物において、捕獲を軸とした管理が推進されることになります。これを受けて、様々な規制緩和(例えば民間参入)や予算拡充も進むことになり、より一層、管理の現場である農山村の役割は大きくなります。人口減少地域において、何が実現可能で持続可能な管理の選択肢になるのか。今まさにその検討が求められています。



 なぜ「東北」から発信するのか? 

 野生動物管理において、「先進事例」や「成功事例」と呼ばれる事業はすでに数多くあります。しかし、先導するキーマンや担い手が確保できない地域において、そうした事例を普及することは容易ではありません。人口減少の進行に伴い、こうした条件不利地域は今後も増加することが予想されます。そこで、人口減少率が最も高い東北地方に標準を定めて新しい野生動物管理システムのプロトモデルを検討していくことは、未来志向の「人と野生動物との持続可能な共存」を考えるうえ最重要課題となるはずです。


    
     
          図.地域ブロック別総人口の推移(1970年を100)
             (国土の長期展望中間とりまとめ、より作成)



 人口減少問題は世界へ 

 人口減少が原因となって連鎖的に引き起こされる社会問題は、”Japan syndrome”という言葉で海外でも紹介されようになりました。日本が人口減少問題で注目を集める理由は、多くの先進国(特にヨーロッパ諸国)も将来的には人口減少時代に足を踏み入れることが予想されているためです。人(担い手)を確保できることを前提とした既往の(欧米由来の)野生動物管理とは異なる「日本型の野生動物管理システム」の構築は、世界からも期待される挑戦となるはずです。

       
図:国連による先進国における2009年から2050年までの人口減少予測(World Population Prospect 2008より作成)


   Copyright(c), YU-COE(C) 人口減少社会適合型野生動物管理システム創生拠点. このホームページの無断転載等一切禁止します