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研究紹介

#04 鳴声を利用してシカとサルを自動で検知する低コスト技術を開発

准教授 江成 広斗(森林保全管理学)

 さまざまな大型哺乳類の個体数増加をうけて、各地で農業被害や生活被害、さらには大規模な森林生態系の改変が懸念されています。そこで、近年では野生動物管理に関わる制度や体制の強化が進められ、センサーカメラ(赤外線で野生動物を自動撮影するカメラ)を活用した哺乳類各種の個体数や分布のモニタリング事業は近年急速に各地で試みられるようになってきました。
 しかし、行政主導で進められる野生動物のモニタリング事業において、広大な山林をカバーし、事業の継続性を担保するための予算確保の困難さ、さらには経験の多寡に由来する調査者間のバイアス(どこにカメラを設置するか、誰が撮影された写真を同定するか、など)などの課題もしばしば指摘されています。そこで江成准教授ら研究グループは、対象動物が発する鳴声を指標としたボイストラップ(海外ではpassive acoustic monitoring、PAMと呼ばれる)をニホンジカとニホンザルを対象に開発しました。


▲朝日山地に侵入するニホンジカ(左写真)と農地に現れるニホンザル


  生態音響情報(鳴声)を活用したモニタリング手法は、直接観察が難しい海獣や鳥類、さらにはコウモリを対象にこれまで進められてきましたが、地上性哺乳類を対象とした関連研究は「観察が可能な動物である」がゆえに、国内外ともにほとんどありません。本研究では、ボイストラップの有効性を検証することを目的に、対象動物の生息状況の異なる東日本各地の7調査サイトにおいて、対象種の検知率と検知可能範囲をカメラトラップと比較しました。各サイトに、センサーカメラとボイストラップ(高性能集音器)を複数台設置し、録音された音声情報から、機械学習によって各鳴声(シカ3種類、サル5種類)の抽出と自動判別を試みました。検証のために録音した総時間数は9,081時間(シカ)と8,235時間(サル)でした。


▲使用した高性能集音器


▲検出対象としたシカの鳴声(ソナグラムで表示)


▲検出対象としたサルの鳴声(ソナグラムで表示)

 主な結果として、①1000録音時間当たり1~2時間のスクリーニング作業(人の視聴覚による確認作業)を取り入れた半自動判別法では再現率(録音されていた鳴声のうち、自動検知できた鳴声の割合)が70%以上を達成可能であること、②ボイストラップの検知率はセンサーカメラの数倍~100倍、検知可能範囲は100~1700倍に達すること、③鳴声は対象動物の在/不在情報だけでなく、個体群動態や社会構成の理解を補助する社会行動学的情報ももたらしうること、などが明らかにされました。これらの成果を用いると、新たに分布を広げるシカの早期検知や、集落に接近するサル群れの自動検知などにも応用することができます。

 この研究は山形大学YU-COE(C)「人口減少社会適合型野生動物管理システム創生拠点」、科学研究費補助金、(公財)自然保護助成基金第28期(2017年度)プロ・ナトゥーラ・ファンド助成、京都大学霊長類研究所共同利用研究の支援を受け実施されたもので、国際誌Ecological Indicators 3月号に掲載されました。

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